アウディ A5カブリオレ
エレガントさと荒ぶる魂を同居させるアウディA5カブリオレ。コクピットに座った瞬間から、アドレナリンの高まりを感じさせてくれる、数少ない1台といえるだろう。
評価
評価項目について
動力性能8点高効率V6エンジンは活発にして低燃費。
操縦安定性9点FR感覚をもたらす緻密なクワトロシステム。
パッケージング8点トランク積載性に優れ、大人4名乗車可能。
安全性能8点強靭なボディにポップアップ式ロールバー。
環境性能8点3.2リッターV6ながら10・15燃費がリッター9.5km。
総合評価9点「エレガントな佇まい」と頼もしい「豪脚」を両立。
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ソフトトップにこだわる理由は・・・。
いまだ逆風に晒されている国内の輸入車市場。特にプレミアムクラス(D、Eセグメント)が厳しい状況だ。その中で孤軍奮闘しているのがアウディ。BMW、メルセデスベンツ、ジャガーなど前年比で30%前後のマイナスの中、落ち幅は4%で、昨年より9%向上しているという。不況下でも販売の影響が少ないということは、その商品が高い鮮度=時流に即応した魅力を持っているからにほかならない。
8月25日から発売が開始されたアウディA5カブリオレも、商品ラインナップ強化の一環。A5クーペをベースとした優美な電動開閉式ソフトトップのフル4シーターモデルである。アウディはソフトトップ(幌)にことのほかこだわる。昨今ライバルメーカーが採用するメタルルーフ(電動格納式ハードトップ)に興味を示さない。
そのこだわりの理由は第一にエレガンス性、そして軽量化だ。幌のルーフは上品かつ上級なクルマであると位置づけ、満足度の高いモータリングをユーザーに提供するためには必須のアイテムと考えているからだ。同社のオープンスポーツカー、アウディTTロードスターもまたソフトトップを採用する。
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ソフトトップは15秒でオープン。
A5カブリオレのボディサイズはベースとなったクーペモデルのA5に準じ、全長4625mm、全幅1855mm、全高は10mm増えて1385mm。ホイールベースも同一で2750mm。
ドアを閉め、イグニッションをオンにすると前席用のシートベルトアンカーが自動的に乗員の肩の位置までせり出すので装着がイージーだ。リアシートはフル4シーターを名乗るだけあり、大人が無理なく乗り込めるスペース。
ソフトトップ(アウディはアコースティックソフトトップと呼称)は、耐候性と断熱性に優れた高品質のキャンバス素材(1.4mm厚)を表面に使用し、内側はファブリック。その中間に遮音性を高める厚さ12mmから15mmのウレタンフォームが充填される。フレームは軽量化のためマグネシウム合金製、リアウインドーは熱線入りガラスを採用するなど精緻な作りで、ソフトトップシステムのトータル重量は52kgに収まっている。オープンに要する時間は15秒、クローズに17秒と素早く、走行中でも時速50km以下なら作動する。
トランク容量はオープン時が320L、クローズ時で380Lと競合オープンモデルを圧倒する。
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7速Sトロニックの絶妙のシフト制御に感動。
A5カブリオレに搭載されるエンジンは3.2FSI(自然吸気V6DOHC)。高圧のガソリンをシリンダー内に直接噴射してハイパワーと低燃費を両立させたアウディのエース的パワーユニットだ。最高出力265ps、最大トルク33.7kgmと数値上は控えめだが、その実力はもっと奥が深い。
鋭いレスポンスもさることながら、低回転域から高回転まで豊かなトルクを発生するのが大いなる美点。ただ速いのではなく、速さの質が高い。
エンジンのパワー、トルクの出し方の制御がきめ細かく、上手にコントロールされている。それに加えて7速Sトロニック(デュアルクラッチ式)トランスミッションが圧巻のシフト制御を見せるから鬼に金棒である。シフトに要する時間はわずか0.2秒なので、ドライバーがどんなにマニュアルの達人であっても歯が立たない。実際の発進加速タイム、燃費性能は6速MT車より7速Sトロニック搭載車の方がいい。
マニュアルトランスミッションのダイレクト感とATのイージー&スムーズ感が見事に合体したSトロニックの存在が、現在のアウディ躍進の大きなカギとなっていると私は思う。
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FR感覚の走りを味わえるクワトロシステム。
世界中にセンセーションを巻き起こしたフルタイム4WD、アウディ・クワトロの誕生は1980年のことだった。以来クワトロシステムは改良を積み重ね、現在は「非対称ダイナミックトルク配分方式」という進化版になっている。これは走行状況や路面コンディションが変化するとグリップが高い方(スリップしていない方)の車軸(フロントまたはリア)により大きなトルクを瞬時に配分する方式だ。
通常走行時では前40%、後60%の配分で、状況によって前60%、後40%から前20%、後80%の範囲で適切にトルクが配分される。乗ってみて実感するのは、たとえば山岳路のタイトコーナーを2または3速でハイスピードで立ち上がる時、あきらかにリアタイヤの蹴り出し感があり、あたかもFR車のような感覚をもたらすことだ。ここが新世代クワトロシステムの最大の売りだ。
構造を一から見直し、熱間成型の超高張力鋼板を多用したボディはきわめて剛性が高く、ミシミシ、ガタガタは皆無。ルーフをオープンにしてもクローズでもクーペのA5となんら変わらないしっかり感(=安心感)のある好ましいハンドリングを示す。
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アウディならではの贅に彩られた1台。
やや冗長に見えるクーペのA5に比べ、カブリオレのスタイリングははるかに優美でバランスがとれている。オープン時はもちろん、クローズしたときのクラシカルな雰囲気がいい。それに加え、各部分の素材や構成パーツが緻密で高級感にあふれていることがいかにもアウディらしい。
たとえば直射日光に晒されても温度上昇を抑える特殊加工のミラノレザーのシートや、高圧ポンプと4本のシリンダーが作動しスルスルとルーフが開閉するアコースティックソフトトップ、新世代クワトロシステムなど枚挙にいとまがない。それらを集積した結果が784万円というプライスタッグである。
カブリオレ、コンバーチブル、ロードスター、スパイダーなどと呼ばれる「幌系」は贅沢なクルマだ。おしなべて高価、多人数や沢山の荷物を載せられない、保管にはガレージが必要、そしてイタズラ、盗難の心配がたえない。それゆえユーザーは経済面だけでなく、「人生に余裕のある人々」に限られる。だからこそ、このA5カブリオレは価値ある魅力的なモデルといえる。ターゲットはずばり大都市圏のユーザー。そのうち東京で全体の80%を見込んでいる。